食物繊維

ここ数年、食物繊維を含んだ健康食品やドリンク剤などの食品が次々に発売されており、中には「機能性食品」または「健康食品」などの言葉を使って宣伝しているものもあります。
これは一種のブームであり、食物繊維に対する関心がとみに高まっていることをあらわしているのではないでしょうか。

一般に、食物繊維は人間のからだの中の消化酵素では分解されない、「植物または動物にある多糖類で、特殊な生理活性をもっている物質」とされています。この食物繊維が五大栄養素(タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル) に次ぐ「第六の栄養素」として一躍脚光を浴び、注目されているのは消化管に入ったときに、少なくとも小腸の終りのあたりまではあまり分解されないで、腸のぜん動(波うつような動き) を刺激し、便秘を防ぎ、ひいては食べ物の中にある、からだに害を与える物質などを、からだから早目に排除するなどの作用が認められたためです。

したがって、口から入ったものばかりではなく、腸の中で二次的に生成された発ガン性の物質なども、早目に吸着して除去するので、食物繊維は腸ガンの予防になる、などという宣伝までされるようになってきました。
食物繊維は、もともと人体では消化されないのが特徴です。ですから、スポンジのように水分を吸収して便の量を増やして排便を促す作用は知られていたものの、これまでは消化が悪くエネルギー源にはならないうえ、栄養素の排出を促進させてしまうとの理由から、栄養的にはばとんど価値がなく、むしろ邪魔者扱いされてきました。

食物繊維は一種の多糖類であり、しかも消化されない物質です。このような生物にある多糖といえば、植物では細胞壁を構成するセルロースやヘミセルロース、細胞壁の間につまっている粘り気のある多糖、たとえばペクチン。

さらに、細胞から植物体の表面に分泌する植物ガム多糖などがあげられます。梅の木などの茎に赤茶色のガム状の粘った物質がついているのをご覧になったことがあると思いますが、あれが植物ガムの一種です。

このうち、とくに食物繊維として利用されるものは、一般に食物中のコレステロールの一部を包み込んで、便とともに体外に排出する働きの大きいものや、発ガン性(特殊な細菌が突然変異を起こし、性質がかわる程度で判断して、発ガン性の大小を決めることが多い) のある性質をもつ物質、たとえば魚や肉など焼いた際に発生する物質の中によく発見されるニトロサミンのような物質を、包み込んで体外に排出する度合の大きいものなどです。

つまり、その力の強い多糖ほど食物繊維としての機能が高いと判断されます。

こうしたことにもとづいて、植物の中にある、94いま述べましたような多糖を見てみますと、セルロースは、そのままではこの機能が低いのです。粒子を細かくする特殊な操作をして、粒子の直径が1ミクロン(ミクロンは100〇万分の1メートル) にすると高い機能性が出てきます。もちろん、こうした加工セルロースは食物繊維として市販されています。

ペクチン、またはペクチン質は、水溶性食物繊維として優良な多糖です。ヘミセルロース類はセルロースのように水に溶けないものと、半水溶のものとに便宜上分けられますが、水に不溶性のものは、セルロースと同様に機能性は低く、半水溶性のほうが一般的に、たとえばコレステロールを包み込んで排出する力は強いのです。

昔から日本人がよく食べるコンニャクは、こんにゃくという植物の球茎に貯蔵される一種の多糖で、グルコースのほかにマンノースという糖が加わってできているもので、中性の水溶性多糖で、消化管の中では一部はゲル状になっています。

血中コレステロール値の高い場合に、コンニャクを食べるとかなり低下します。このことはヒトの実験でも明らかにされています。

もちろん腸内細菌の酵素では分解されますが、人間の消化液では分解されにくい物質です。したがって、コンニャクは良質の食物繊維ということができます。

ペクチンは、以前にはゼリー菓子などの材料としてゼラチン同様に使われていた、植物にある水溶性食物繊維として認められており、その機能性も高いとされています。陸上の植物は、一方ではセルロースやリグニンのような固い物質を細胞壁の成分として、風などで倒れないように身を守っていますが、一方では細胞の間の充填物質としてペクチンがあり、細胞壁を柔軟にして、やわらかい性質をもたせています。

ところが、栄養の面からみてみますと、セルロースやリグニンは硬くて水に溶けにくく、消化管内で絡み合うような構造になりません。そのため結局、コレステロールや胆汁酸などを包み込む力がばとんどなくなり、機能性に乏しい結果になってしまいます。

しかし、-方のペクチンはそれとは反対に、水によく溶けやすく、消化管内で絡み合って、立体的なジャングル構造になるために、種々の機能性を発揮するのです。動物の肉などから得られる食物繊維としては、カニやエビの表面を被っているキチンを、少々化学的に変化させて、水に溶けるようにしたキトサンという多糖があり、優良食物繊維として市販されているものもあります。

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近年になって、これらの食物繊維は、人体の酵素では消化されないものですが、その特徴がかえって意外な効果を示すのです。

つまり、便の量を増やしてすみやかに排便させるということは、それだけ便が腸の中にとどまっている時間が短いことを意味し、そのことが、たとえば大腸ガンの発生率と密接に関係してきたり、また余分なコレステロールを体外に排出するような働きとなってあらわれるのです。

また、食物繊維は低カロリーですので、肥満の予防にも役立つことはいうまでもありません。便は、体内の老廃物の固まりですから、その中にはからだに害になる物質もたくさん含まれています。もちろん、発ガン性物質もそのひとつですが、それが長い間、腸の中にとどまっていれば、発ガン性物質による影響を長く受けることになり、腸ガンが発生する率も高くなるのは、当然のことです。

ですから、便となった食物は一刻も早く体外に排出してしまうことが大事で、それを助ける食物繊維の重要性はいうまでもありません。
さらに、食物繊維の利点はそれだけではないのです。というのは、食物繊維には発ガン性物質そのものや、発ガン性物質の働きを助ける物質を吸着する作用や、水を吸って便を薄める作用もあるからです。

つまり、食物繊維は、腸の中に発生した発ガン性物質のような、からだに有害な物質を水で薄めてその働きを弱め、吸着するばかりか、そはいせつれをすみやかにからだの外へ排泄して、ガンの発生をおさえるというすばらしい働きをしてくれるのです。

現在、日本ではガンによる死亡率があいかわらず高くなっていますが、それをくわしく検討してみますと、これまで多かった胃ガンの発生率は年々減少しているものの、欧米など肉食の人々に多い大腸ガンの発生率や死亡率が、ともに上昇の一途をたどっています。

それは、日本人の食生活がだんだんと欧風化して肉食中心になり、とくに脂肪をたくさん摂取するようになったためで、昭和25年には1日目20グラム程度であった日本人の平均脂肪摂取量が、今では50~60グラムと大幅に増え、それにつれて大腸ガンも目立ってきているのです。

また、脂肪摂取量と反比例するように、日本人の繊維摂取量がいちじるしく低下し、本来とるべき食物繊維も、まったくといっていいほど不足しています。こうしたことから、大腸ガンを防止するためにも、まず脂肪のとり過ぎに気をつけ、さらに食物繊維を多く含む食品を積極的に食べることがどうしても必要なのです。

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