昆布 抗腫瘍性食物繊維の 抗腫瘍性効果について少し考えてみようと思います。海藻のどんな成分がガンに効くのかを紹介します。
昆布 抗腫瘍性 抗ガン効果の実力について
ここ十数年の医学の進歩は、胃ガンを初めとするガンの予防や治療を可能とし、以前にくらべると、ガンによる死亡率もずいぶん減ってきています。しかし、それでもなお、わが国の死亡原因では、あいかわらずガンが上位を占めており、恐ろしい病気のひとつであることにはかわりがありません。
現在、世界各国でもガンに対する研究がさかんに行われていて、なかでも、発ガン物質の研究とともに、ガンの発生を抑制する効果のある食べ物に関する研究が進められています。
つまり、発ガン物質を食べないようにすると同時に、毎日ガンの発生を抑制する可能性をもっ食べ物を食べ、ガンを未然に防ごうというのです。そして、実はこうしたガンの発生を抑える効果が期待されている食べ物として今注目を集めているのが、動物実験では抗しゅよう性が高いコンプとかワカメやノリなどの海藻です。
いっぽう、アメリカのゲルソン氏などを筆頭にした学者たちが、ヒトのガンでも、食事を選ぶことによって治ると主張しています。
つまり、大量の野菜、そのジュース、精白しない穀物、無塩食物、亜麻仁油、カリウム甲状腺剤やすい臓酵素剤などを適当に摂取する方法をあげています。先日は、大手の新聞にエゴマ油がいいという記事が掲載されました。
抗がん性の実験
これまでの注射での実験とは違い、海藻の粉末や、それから抽出したものをガンを植えつけた細物に食べさせるだけでそのガン細胞の増殖が抑えられるという、画期的な実験結果を得ることができました。
その実験は、まず、ジメチルヒドラジンという、腸に特異的にガンを発生させる発ガン物質を、ラット(ネズミの一種)に与え、ふつうのエサだけで飼育したラットの発ガン率と、コンブをはじめとする食用海藻数種類の粉末や抽出物を混ぜたエサで飼育したラットの発ガン率とを比較してみたのです。
その結果、海藻の種類にもよるのですが、海藻を混ぜたエサのほうが、30~70%もガンの発生率が低くなったのです。また、ジメチルベンズアストランセンという乳ガンを特異的に起こさせる物質をラットに与えて、同様に実験をしたところ、これも同じような結果が得られたのです。
これは海藻中に含まれている特殊な成分によるものなのか、それとも腸内で、エサと混ぜた発ガン物質が、いっしょに混ぜてある海藻粉末や、それから抽出した物質のために無効にされたためなのか、というような考え方がありますが、最近の実験によりますと、海藻粉末が発ガン物質が体内に吸収されるのをわずかながら妨げているらしいとのことです。
しかし、そのためだけで発ガン率が減ったとは思えないくらいの結果でした。
そこで、別の実験方法を考え、実験結果を再吟味してみました。つまり、発ガン物質と海藻粉末や抽出物をいっしょに食べさせることで、その発生率が抑ひふえられるなら、あらかじめ皮膚などに植えつけたガンも、その増殖が抑えられるのではないかということです。
実験は、60余種の海藻の粉末を用意して、同時にエールリッヒ固型ガンというガン腫の細胞を一定量注入移殖したマウス(ハツカネズミ)を2つのグループに分け、一方にはふつうのエサだけを与え、一方にはふつうのエサに、適量の海藻粉末を混ぜたエサを与えて、どちらも4週間飼育してから、すべてのマウスを解剖して、ガン細胞のかたまりをとり出し、重量を測ってその増殖度を、ふつうのエサブループと海藻粉末を混ぜたエサグループとで比較してみました。
ところが、非常におもしろいことに、35%以上のガン増殖の阻止率を示した海藻が23種類もありました。
次に、60余種の海藻のうちから25種類を選び、今度は皮膚に、メスA繊維肉腫というガン細胞を移殖したマウス群の、半分には適量の海藻粉末を腹部に注入し、もう半分はそのままの状態で7日間飼育したのち、前の実験同様に、すべてのマウスを解剖して、ガン細胞の増殖度を比較してみました。
昆布や青海苔については、高い阻止率を示す種類に入っていましたが、わかめや海苔は低いほうでした。ここでおことわりしておきたいのは、実験の結果待られた阻止率の数字の大小だけで、抗ガン性の効果の有無とか、強弱を議論することはできませんし、また、それだけ早急に結論を出してはならないということです。
その訳は、抗ガン性の実験方法とか、使用したガン細胞の種類などにより、ガン細胞の増殖阻止効果がいちじるしく違ってくるからです。ある方法で、ある種のガン細胞が、ある海藻によりその増殖が抑えられたとしても、ほかの5実験方法とか、ほかの種類のガン細胞で実験したときに、それと同じ結果が得られるとは限りませんし、むしろかなり違うことのほうがふつうなのです。
効果を示す成分
さて、前の実験の結果から、少なくともこんぶやわかめ、海苔の粉末には抗ガン性があると思われますが、それでは、その中のどの成分が有効に働いているのでしょうか。
これらの海藻のある種のものには、共通にアルギン酸とかフコイダンがあり、また、それがない種類でも、抗ガン性を示す海藻、たとえばノリにはアルギン酸やフコイダンのかわりに、ポルフィランという硫酸多糖があり、それはアルギン酸などと同類の生理作用をもっていることに注目しました。
そして、前の海藻からも数種類の硫酸多糖を抽出しました。これらは、つまりコンプやワカメ、ノリなどの食物繊維のことです。その硫酸多糖を用いて、前記とまったく同じスケジュールで抗ガン性を調べたところ、アオノリの「ヌメリ」の硫酸多糖、市販のアルギン酸、ワカメのフコイダン、キリンサイやツノマタからとった硫酸多糖の2、3種頬のカラーギナン、ノリからとった硫酸多糖のポルフィランなどは、すべてガン細胞の増殖を阻止しました。
このことから、ガン細胞を移殖したマウスに食べさせて抗ガンを示した海藻粉末の、抗ガン性本体の成分は、少なくともアルギン酸、フコイダン、ポルフィランなどの「海藻のヌメリ成分」であると考えられるのです。ところが、この研究を続けるうちに、今まで知られていなかった新しいことがわかりました。
元来、昆布、わかめ、海苔などの食用海藻のの脂質は単純なものではなく、さまざまな違った脂質の混合物ですので、それぞれからとり出した脂質を各種の成分に分けて、その各成分を使って同じ実験をしたところ、どの海藻の場合でも、共通の性質をもっている成分の脂質が抗ガン性を示しました。
このことから、海藻粉末の抗ガン性の本体には、食物繊維の酸性多糖のほかに、ある種の脂質も関係していることがわかったのです。
以上のような海藻の抗ガン効果が、はたして人間にとってはどうなのかというのは大きな間題です。しかし、ワカメの芽株の水に溶けない多糖が主成分のサンプル(おそらくアルカリ可溶のアルギン酸が主体)は、ガンを移殖したマウスに対して、現在人間に使用されている抗ガン剤と相助効果があるという報告もありますから、海藻からとれる抗ガン成分には、将来、その利用価値が望めるような気がします。